井上真偽先生の「その可能性はすでに考えた」を読んだヤマサキングの簡単な感想です。
事件のネタバレは極力避けていますが、事前情報を入れず真っ新な状態で読みたい方は、ご注意ください。

概要
「その可能性はすでに考えた」は2015年刊行の推理小説で、2016年度第16回本格ミステリ大賞候補に選ばれた他、各種ミステリーランキングにランクイン。「恋と禁忌の述語論理」に続く、井上真偽先生の2作目の作品です。

上苙(ウエオロ)は、探偵業を営むイケメン美男子。彼は、奇蹟(キセキ)の存在を証明することに生涯を捧げている。ある日、彼の探偵事務所に、とある事件の真相解明の依頼が舞い込む。調査の結果、上苙(ウエオロ) が示した事件の真相は、科学的には起こりえない、まさに奇蹟そのものだった。しかし、奇蹟を認めない謎の組織から探偵のもとに刺客が出され、別の事件真相の可能性を提示される。 上苙(ウエオロ) は奇蹟の存在を認めさせるため、あらゆる可能性を否定していく。

概要 (少し詳しく)
このお話は、現実離れした推理が出てきます。前作の「恋と禁忌の述語倫理」に続き、探偵役が事件説明を聞き、その細かな描写説明から真実を導くという形は同じです。しかし、探偵が結論付けるその真相が、現実的なものではなく、奇蹟的な現象です。

”真相が奇蹟的な現象”とは、例えるなら ”ある密室から犯人が逃げた方法が瞬間移動である” といったものです。トリックも何もありません。通常の推理小説なら棄却される推理です。しかし探偵の 上苙(ウエオロ) は、「奇蹟以外のあらゆる可能性を洗い出し、それらを全て否定すれば、残った奇蹟が証明できる」としています。上の例であれば、”瞬間移動以外で密室から抜け出す方法を全て否定すれば、瞬間移動が認められる”という論理です。

今作では、とある黒幕からの刺客たちが 上苙(ウエオロ) の推理した奇蹟を否定するため、事件の真相となりうる、様々な仮説を持ってきます。それらは、確率が低い・又は少々無理がある仮説ですが、一応現実的に起こりうるものです。上の例であれば、”犯人は壁を作る技術を持っていて、部屋の壁を壊して出た後、壊した跡がわからないように壁を作り直した”とかです。その仮説を、上苙(ウエオロ)は「その可能性はすでに考えた」とタイトル回収をして、否定していくのです。

感想(簡単に)
今作の面白さは、事件の描写説明の一文から、仮説を否定できるところです。一見意味のないような一文が意味を持っており、その文はこのためにあったのかと興奮します。いわゆる伏線回収の気持ちよさですね。
少し否定的な意見を述べれば、推理メインで登場キャラの深掘りは少し淡白な印象でした。奇蹟の存在を信じる探偵なので、ちょっと共感しにくい人物設定になっているのではと思います。ですので、キャラ物として読みたい方よりも、ガッツリ推理小説を読みたい方にお勧めです。

気になった方は、ぜひ読んで見てください。

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