「このミステリーがすごい! 2023年版」の国内第1位に選ばれた「爆弾」。その高い評価と、400ページを超える重厚感に惹かれ、書店で手に取りました。同じく手に取った方々と感想を共有できればと思います。是非ご覧ください。(ネタバレありなので、ご注意ください!)

〇概要(話のはじまり)
 爆弾犯と警察の対決を軸に、それを取り巻く関係者らの群像劇。
 傷害・器物破損事件の容疑者として、警察送りとなった不気味な中年男性(スズキタゴサク)。彼は取調室の中で、突如として爆弾事件を予言し、その予言通りに爆発が起こる。スズキはさらなる爆弾の存在を予告し、警察との推理ゲームを始めるのだった。

〇面白かった点
 面白かった点はいくつもあるのですが、今回は2つにまとめて紹介します。1つは序盤からの導線。もう一つは、負の感情のリアルな描写です。

序盤からの導線
 この作品では、物語の序盤から、何気ない文に、爆弾事件のキーワードが出されています。例えば、爆弾の仕掛け場所である「山手線」は、冒頭から登場していましたし、同じく爆弾が仕掛けられていた「自動販売機」は、犯人のスズキが蹴って壊し、器物破損で捕まるきっかけとなったものです。いわゆる、伏線が張られている状態です。
 伏線と呼べるかどうかはともかく、キーワードが冒頭から無意識に刷り込まれると、本を読み進めやすい気はします。頭を使うミステリー系では特に。本を読むときは、頭の中で文章を映像化しますが、キーワードの映像化を序盤であらかじめ済ましていると、読みやすくなるのかもしれません。盛り上がりの場面で映像化にかけるエネルギーを節約できますからね。

 また、このお話は180度の転回が2回起こって、結局は最初の話に戻るところも楽しめました。最初、犯人のスズキは単独犯だと思われ、途中から仲間がいたと推理されますが、結局最後は単独犯だと分かります。また、スズキは爆弾の仕掛け場所について、霊感で分かると言っていて、「そんなわけない!お前が仕掛けたんだろう!」と当然なるのですが、最後の方で実は、爆弾の場所について詳しくは知らなかったことが明かされます。最終的には、最初の直感や設定が合っていたというパターンです。序盤の振りが効いているともいえますね。

 このように序盤からしっかり導線が張られていて、後半にそれが効いてくるので読みやすいですし、読み返して導線を発見する面白さがありました!

負の感情のリアル描写
 人は聖人でもない限り、誰しもが負の感情を持っていると思います。
「赤の他人を助ける必要ある?私が困ってもどうせ助けてくれない人たちなのに。 社会の役に立っていない人は、生きる価値はない。」
普段、人の優しさに触れ、人を大切にしようと思っていても、少し嫌なことがあると、そういった負の感情が顔を出してきます。

 この本の犯人、スズキタゴサクはいわば負の感情を凝縮した人間です。自分の人生に希望がなく、他の人々が傷ついても自分には関係ない、どうでもよい、といういわゆる無敵の人。そんな彼の全体に共感できる人は少ないと思いますが、その一部に共感してしまう人は多いのだろうと思います。私も思えば悪側の人間だったので、彼の感情に共感しまくりでした。

 また、今作では爆弾事件をきっかけに、負の感情が徐々に大きくなる登場人物たちを描いています。闇のある刑事、正義感の強い刑事、警察官、一般大学生、等々。みんなきれいに闇落ちしかけます。私はスズキでも十分共感できましたが、皆さんにはこれら他の登場人物たちの方が、より身近で共感しやすいかもしれませんね。例えば、市民の安全を守る、いち警察官は、爆弾に巻き込まれた同僚の復讐のため、スズキを殺しかけたりします。その結果に至る感情描写が、丁寧かつリアルで、私は好きでした。

・まとめ 
 結局、タイトルの「爆弾」とは、誰もが持ち、いつ爆発するかもわからない負の感情のことなのかなと思います。今作の爆弾探しを通じて、自分の中の爆弾に気付き、爆発しないよう注意しましょう。

爆弾 [ 呉 勝浩 ]

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